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彼の話をする。彼とはネット掲示板で知り合った。私が「つらい、死にたい」と投稿したら自分も同じだとチャットが送られてきた。理由は恋人と別れたからだと言っていた。ただの失恋か、と思ったのを覚えている。でも本当はそんな軽いものじゃなかった。それからチャットと通話をして後日会うことになった。

 

彼の顔を見たとき、なんて喪失感に溢れて悲しそうな人なんだろうと思った。そのまま電車で彼の家へ行った。彼とベッドに横になり、全てを吐き出したら一気に涙が溢れ出た。彼は「大丈夫、大丈夫」と私を優しく抱き締めた。それから何度か彼の家へ行った。苦しい、助けてと連絡をすれば「おいで」と言って最寄りの駅までタクシーで迎えに来てくれた。映画を観たり、話をしたり、ただひたすらセックスをしたりした。

 

セックスの最中「君は自分で自分を苦しめてるんだよ。僕のところに来れば君は悲しまずに済むのに。」と何度も彼は言って私はまた泣いた。

 

彼は彼なりに苦しい経験をしてきたらしい。小さい頃、叔父に犯されたり当時付き合っていた恋人が自殺をしたり。まだ22歳なのにもうこの世の全ての悲しみを知ってしまったかのように酷く大人びていた。そして私の全てを受け入れて愛した。

 

彼は20冊の本を破きながら読んだことがあると言った。「試してみるといいよ。」とも。初めて会った日の帰りにいらない本を10冊ほどくれた。彼のお気に入りの鈴木いづみも貰ってしまった。

 

彼はもういなくなってしまった。すぐに会える距離にはもういない。ひとりぼっちになったのだ。彼も私も。