嘗て好きだった人

何かを頑張ろうと思える恋だった。

一つ上の彼とは出会い系アプリで知り合った。友人と一緒に始めたという大阪住みの彼が東京へ来ることになった数日間、毎晩無料通話をした。彼は関西人特有のユーモアのあるトークで私を楽しませた。彼が東京へ来る当日、私は彼を新宿へ迎えに行った。当時、まだ私は高校生だった。既に推薦で大学進学も決まり、学校の自習室へ勉強しに通っていた。

 

新宿駅南口で彼からの電話を待ち、着いたと知らされ彼を探そうと思ったが私たちはお互いの顔を知らなかった。本名も通う大学も、やったことのあるバイトも知っているのに。でも彼は私をすぐに見つけた。こんなにも曇りのない笑顔があるだろうか、と思うほど爽やかな笑顔で私に声をかけた。今思えばこのときに一目惚れをしていたのかもしれない。

 

三日間、東京を案内して彼とはとても仲良くなった。彼が深夜バスで帰る日、私はずっと泣いていた。「大学へ行ってバイトをして視野を広げて、大阪に会いに来て」と彼は私の頭を撫でながら言った。そして「行ってきます。」と初めて会った時と同じ笑顔でバスに乗った。

 

それから私は大学に進学し、バイトをしてひとりで彼に会うため新幹線で大阪へ向かった。新大阪駅で迎えてくれた彼は半年前よりも少し背が伸びていた。今度は彼に大阪や京都、奈良を案内してもらった。中学2年の京都と奈良の修学旅行に行かなかった私にとって、遅くやってきた修学旅行のようだった。彼は私の写真を撮ってくれた。好きな人に撮られる写真はモデルの一番の笑顔を引き出すと聞いたことがある。

 

私たちの『これから』について話した時、彼は「今は勉強に集中したいから付き合うことはできない。ひとつのことにしか集中できないんだ。」と私に言った。実際、彼は大阪でも偏差値の高い大学の理系の学科に通う頭の良い人だったから。でも私は『待っていてもいいかな?』と聞いた。この台詞、前も彼に言ったなぁ…と思った。あの時は、「うん」と言ったのに、今度は「待たなくていいよ」なんて言われてしまった。待たなくていいんだ。

 

それからはもう覚えていない。帰りの新幹線の隣席のカップルが仲良く言葉遊びゲームでもしていて、それをずっと聞いていた。もしかしたら、少し泣いたかもしれない。帰宅してからは食事も取る気にもならなかった。ずっと泣いていた。次の日にバイトを入れてしまった自分を憎んだが、なにも考えずにいられるので救われた。

 

彼はいつも歩いているとき、HilcrhymeやHISATOMIを口ずさんでいた。同じ曲を聴きたくて彼に会うまでに何度も聴いたどうせ終わった恋なら、この曲も私の曲にしてしまおう。だから彼を思い出したとしても何度も聴いた。彼が聴いていた曲じゃない。もう私の曲だ。これでいいんだ。

全てをやめてもいいと思えた。終わった恋。