lost

もう会うことがない人々を思い出す。

インターネットで知り合って一度だけ寝た人たち。インターネットで知り合ったけど、カフェオレを一杯だけ頼んで別れた同い年の男の子。彼らは私を思い出すことはきっと無いけど、私は時々思い出す。彼らと初めて会った東京の街、あの人がつけていた香水。テレビから流れる映画をよそにセックスをした新宿のホテル。酔ったフリ。ひとりぼっち。

 

ところで、2年前に死んだ祖父に会いたい。無口だった祖父が死んだ後、部屋の本棚を見ていたら日記が出てきた。クラブの練習に行ったこと、私が学校を休んだこと、全部書いてあった。言葉を直接掛けてきたりすることは無かったけれどちゃんと私たち家族を見ていた。最後にちゃんと話をした時、素っ気なくしてしまった気がする。病院に入院してからはもうまともに話していない。

それから、逝ってしまった。

3年付き合った恋人と別れるよりも辛い。

そんなに続いたことはないけど、きっとそう。

 

 

人と別れるのがつらいから誰とも親しくせずに一人きりで生きていけたらどんなに良いだろうか。失うのが怖くて仕方がない。誰も私に優しくしないで。

 

 

 

 

 

gone

彼の話をする。彼とはネット掲示板で知り合った。私が「つらい、死にたい」と投稿したら自分も同じだとチャットが送られてきた。理由は恋人と別れたからだと言っていた。ただの失恋か、と思ったのを覚えている。でも本当はそんな軽いものじゃなかった。それからチャットと通話をして後日会うことになった。

 

彼の顔を見たとき、なんて喪失感に溢れて悲しそうな人なんだろうと思った。そのまま電車で彼の家へ行った。彼とベッドに横になり、全てを吐き出したら一気に涙が溢れ出た。彼は「大丈夫、大丈夫」と私を優しく抱き締めた。それから何度か彼の家へ行った。苦しい、助けてと連絡をすれば「おいで」と言って最寄りの駅までタクシーで迎えに来てくれた。映画を観たり、話をしたり、ただひたすらセックスをしたりした。

 

セックスの最中「君は自分で自分を苦しめてるんだよ。僕のところに来れば君は悲しまずに済むのに。」と何度も彼は言って私はまた泣いた。

 

彼は彼なりに苦しい経験をしてきたらしい。小さい頃、叔父に犯されたり当時付き合っていた恋人が自殺をしたり。まだ22歳なのにもうこの世の全ての悲しみを知ってしまったかのように酷く大人びていた。そして私の全てを受け入れて愛した。

 

彼は20冊の本を破きながら読んだことがあると言った。「試してみるといいよ。」とも。初めて会った日の帰りにいらない本を10冊ほどくれた。彼のお気に入りの鈴木いづみも貰ってしまった。

 

彼はもういなくなってしまった。すぐに会える距離にはもういない。ひとりぼっちになったのだ。彼も私も。

 

 

 

chloe

7/24

深く深く考えることが少なくなって私が私じゃなくなっていく気がした

 

7/29

なんでもない夏を愛したかった

ここじゃ月も星も見えない

 

8/2

可愛い服を着てデートをしたってどうせ家に行ってセックスしてくしゃくしゃになるだけの虚無

 

8/4

何に向かって「平衡」を思えばいいのか分からない 私の周りには何もない

 

8/19

自分がきらい

嘗て好きだった人

何かを頑張ろうと思える恋だった。

一つ上の彼とは出会い系アプリで知り合った。友人と一緒に始めたという大阪住みの彼が東京へ来ることになった数日間、毎晩無料通話をした。彼は関西人特有のユーモアのあるトークで私を楽しませた。彼が東京へ来る当日、私は彼を新宿へ迎えに行った。当時、まだ私は高校生だった。既に推薦で大学進学も決まり、学校の自習室へ勉強しに通っていた。

 

新宿駅南口で彼からの電話を待ち、着いたと知らされ彼を探そうと思ったが私たちはお互いの顔を知らなかった。本名も通う大学も、やったことのあるバイトも知っているのに。でも彼は私をすぐに見つけた。こんなにも曇りのない笑顔があるだろうか、と思うほど爽やかな笑顔で私に声をかけた。今思えばこのときに一目惚れをしていたのかもしれない。

 

三日間、東京を案内して彼とはとても仲良くなった。彼が深夜バスで帰る日、私はずっと泣いていた。「大学へ行ってバイトをして視野を広げて、大阪に会いに来て」と彼は私の頭を撫でながら言った。そして「行ってきます。」と初めて会った時と同じ笑顔でバスに乗った。

 

それから私は大学に進学し、バイトをしてひとりで彼に会うため新幹線で大阪へ向かった。新大阪駅で迎えてくれた彼は半年前よりも少し背が伸びていた。今度は彼に大阪や京都、奈良を案内してもらった。中学2年の京都と奈良の修学旅行に行かなかった私にとって、遅くやってきた修学旅行のようだった。彼は私の写真を撮ってくれた。好きな人に撮られる写真はモデルの一番の笑顔を引き出すと聞いたことがある。

 

私たちの『これから』について話した時、彼は「今は勉強に集中したいから付き合うことはできない。ひとつのことにしか集中できないんだ。」と私に言った。実際、彼は大阪でも偏差値の高い大学の理系の学科に通う頭の良い人だったから。でも私は『待っていてもいいかな?』と聞いた。この台詞、前も彼に言ったなぁ…と思った。あの時は、「うん」と言ったのに、今度は「待たなくていいよ」なんて言われてしまった。待たなくていいんだ。

 

それからはもう覚えていない。帰りの新幹線の隣席のカップルが仲良く言葉遊びゲームでもしていて、それをずっと聞いていた。もしかしたら、少し泣いたかもしれない。帰宅してからは食事も取る気にもならなかった。ずっと泣いていた。次の日にバイトを入れてしまった自分を憎んだが、なにも考えずにいられるので救われた。

 

彼はいつも歩いているとき、HilcrhymeやHISATOMIを口ずさんでいた。同じ曲を聴きたくて彼に会うまでに何度も聴いたどうせ終わった恋なら、この曲も私の曲にしてしまおう。だから彼を思い出したとしても何度も聴いた。彼が聴いていた曲じゃない。もう私の曲だ。これでいいんだ。

全てをやめてもいいと思えた。終わった恋。

 

彼女

この前、高校の時の同級生が目の前で飛び降りる夢を見た。高1から高3までずっと同じクラスで、出席番号が私の後ろだった。彼女は健康診断などの時に必ず私の隣や後ろで並んでいた。その度、私の髪を嗅ぎながら『うん、今日もいい匂い』と一言放っては、私の前の子に「気持ち悪いからやめなよ…」と引かれていた。

 

彼女は今、美大に通いながら趣味でセーラー服を着たりして女の子を一眼レフで写真を撮っている。最近、原宿のギャラリーで同じ美大仲間と写真展を開いていたみたいだった。彼女のInstagramにはその様子が載っていて、巷で話題の「ゆめかわいい」を象徴してるかのようなピンク色の髪の毛の女の子の写真と共に[◯◯ちゃんが来てくれたよ]と書かれていた。

 

私の目の前で飛び降りた彼女は、セーラー服を着ていて夜の光の中に混じって降りていった。ただただ綺麗だった。私は彼女に向かって何かを叫んだけど、届いていないようだった。私だけが彼女の最期を見たのだという思いと同時に『先を越されてしまった』という悔しさと絶望感があった。自分もあんな風にいつか美しく飛び降りるんだ、と思い目を覚ました。

Persons waiting

私は今、駅中のカフェでいつ来るのか分からない人を待っている。好きか嫌いかも分からない人をなぜ待ち続けているのか分からない。ただ会えたらいいくらいの気持ちで待っている。400円のカフェラテはもうすっかり冷めてしまった。いつも会うのは突然だから、言いたいことも言えずに挨拶だけして終わってしまう。

 

人生は待つことの繰り返しだといったのは誰だったっけ。雨がやむのを待ち、日曜日がめぐるのを待ち、恋人からの電話を待ち、お湯が沸くのを待ち、電車がくるのを待ち、眠りがおとずれるのを待ち、待ち人があらわれるのを待つ。

 

本当は私は待つことが苦手だ。だっていつまで待てばいいのか分からない。退屈。今日来なかったらもうここで待つのはやめにしよう。何度もそう思うのに、きっとまた私はここに来るんだろうな。

救われない火曜日

今日はメンタルクリニックに行く日だったので診療開始時間前に行った。平日にも関わらず大体30代から60代前後の男女が待合室のソファに腰掛けていた。私は通っているメンクリの受付が嫌いだ。待合室の真ん中に位置しているのだけれど、ドアを開けた瞬間に複数の人々の目線。そして無愛想な受付の女性たち。毎回、「◯◯先生をお願いします」と言う。

 

呼ばれるのを待っている間に、診察を終えて会計を済まし、お釣りを受け取っている男性。その時に10円玉を落としたのだけれど、彼はどこに落ちているのか全く気付いていなく、足元の茶色い床を手探りで探している。周りの人はその一部始終を見ていたからどこにお釣りの10円玉が落ちているのか気付いているはずだったのに、誰も彼に教えようとしなかった。私はサッと立ち上がり無言で彼にその10円玉を渡した。

 

診察はいつも5分程度。長くて10分くらい。最近どうなのか聞かれて、変わったことも特にないのでそれを伝え、いつも通り薬を出してもらう。「死にたい」と思ってそれを伝えてもどうすることも出来ないだろうし、薬を増やされるだけなので言わないでおく。いつもは2週間分なのに来月から大学がまた始まるし、無くならないように今日は4週間分のサインバルタを出された。薬が効いている気配は全くない。治る気が自分にあるのかも分からない。

 

受付で会計をしている時、待合室の人間にジロジロ見られているのではないかと自意識過剰になり冷や汗が出てきた。例えるなら、体育の時間に体育係としてみんなの前で体操の掛け声をあげている時、みんなの視線が無意識に集まるアレ。少しの緊張感。「はぁ…やっぱり外に出たくない…」そんなことを考えていた火曜日だった。